経理マンでもFIREしたい

〜とあるアラフィフ経理マンの早期退職を目指す日常〜

自社株買いと消却

本日はニュースを見てふと気づいたことを書いてみます。

昨今は株式の持ち合い解消に伴う株式需給悪化(だけではないですが)に対応するため、自社株買いが活発です。自社株買いした株式は、財務諸表上は貸借対照表の純資産の部に自己株式として、純資産マイナスで計上されます。また、株主目線では議決権株式総数が減少し、持株比率及び一株純資産が変動する、という影響があります(自社株買い前の一株純資産より安い単価で自社株買いすれば増加、高いと逆になります)。

これで終わり、ではなくて、会社側にはこのあとの選択肢があります。買い入れた自社株を消却、つまりなくすことができます。これを行うと、財務諸表上は自己株式と他の純資産項目が相殺されますが、純資産総額としては影響ありません。また、株主目線では、自社株が再び市場に出ることにより持株比率や一株純資産が低下する可能性がなくなります。要するに、株主目線では自社株消却はメリットが大きいということになります。

手続きもそれほど大変ではないようなのですが、それではなぜ会社は消却を行わないのでしょうか。一つは上に書いた通り、自社株を市場に再放出することを選択肢として持つことです。自社株は当然ながら価値があるので、交換対価として使用できます(例えばM&A株式交換をすれば、キャシュ負担無しで会社を買収することが可能)。

実は最近、これに加えてもう一つの理由が出てきているように感じます。それが、東証上場基準です。最近実施されている東証市場改革で改定された上場基準の中に「流通株式比率」というものがあります。これは、総株式の中で、余裕が固定化されていない、つまり実質的に市場に出回り売買される株式の数がどのぐらいあるか、という指標です。これを一定以上に保持することが求められています。上場している他の会社の子会社は、この基準に抵触するため、非上場化するか、保有株式を売却するかを迫られました(昨年だったかに実施された日本郵政によるゆうちょ銀行株式売却がこれに当たると考えています)。

流通株式比率の計算式は以下のとおりです

(発行済株式総数−発行済株式総数10%以上保有大株主、持ち合い及び自己株式等固定化していると考えられる株数)÷発行済株式総数

ポイントは、流通株式から控除される大株主の判定式です。「発行済株式総数」の10%以上なので、消却は発行済株式総数の減少に繋がり、10パーセントのハードルを下げることになるのです。流通株式比率がそれ程高くなく、大株主一覧で議決権比率が10%程度の株主がおり、かつ大量の自己株式を保有し続ける会社はこの可能性が高いです。何せ超えた瞬間流通株式比率が10%程度低下しますから。計算式を見ておわかりの通り、消却自体は流通株式比率を高める効果があります。それでも「機動的な資本政策を可能にする為」等もっともらしいことを言って多額の自己株式を保有し続ける会社は上記を疑っても良いかもしれません(多い会社は発行済株式総数の数十%の自己株式を保有していたりします)。